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大阪高等裁判所 昭和46年(行コ)1号 判決

大阪市浪速区船出町一丁目三五番地

控訴人

浪速税務署長

井沢清仁

右指定代理人

日下統司

右同

中村鉄

右同

辻貞夫

右同

上野旭

右同

山口一郎

右同

岡準三

大阪市浪速区元町二丁目一〇〇番地

被控訴人

陳焜照こと 顔陳焜照

右訴訟代理人弁護士

小畑実

右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人の昭和三八年度分所得税について昭和四〇年五月一三日付でした、総所得金額を金四、九〇六万一、二七一円とする更正処分のうち、金六〇七万九、一三三円を超える部分および重加算税金六九八万七、三〇〇円の賦課決定処分のうち、その対象となる譲渡所得金額金三、六九七万三、七八八円に対応する部分をいずれも取り消す。被控訴人のその他の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分はいずれもこれを取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、左記に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

一、被控訴人の昭和三八年度分の譲渡所得金額を金四、二九八万二、一三八円とした本件更正処分には違法はない。すなわち、原判決添付別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)については、昭和三七年八月二二日、被控訴人から昌栄商事株式会社(以下昌栄商事という)に代金一、五〇〇万円で、原判決添付別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)については、蔡詒煙(以下蔡という)から昌栄商事に代金二、五〇〇万円でそれぞれ売却され、ついで、本件土地建物について、同年八月三一日、昌栄商事から川上土地株式会社(以下川上土地という)を通じて株式会社竹中工務店(以下竹中工務店という)に代金九、三〇〇万円で売却されたように法律的形式がとられているけれども、真実は、本件土地建物はいずれも被控訴人の所有に属していたものであって、被控訴人は、昭和三七年八月三一日、本件土地建物を川上土地を通じて竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却したものである。被控訴人は、たまたま本件建物が蔡の所有名義になっていたところから、これを奇貨として、あたかも蔡がその所有の本件建物を売却したもののように仮装して譲渡所得の分散を図ったものであり、さらに昌栄商事なる中間譲渡者を介在させるなど虚構の事実をつくり上げて、所得税を免れようとしたものである。したがって、被控訴人がその所有の本件土地建物を代金九、三〇〇万円で譲渡したものであるから、その譲渡所得金額は金四、二九八万二、一三八円でなければならない(その算出経過は原判決三枚目裏三行目から同四枚目表五行目までのとおりである。)。ところで一般に、資産の譲渡に基づく収入金額は、所得金額の計算上、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転した日の属する年度分の総収入金額に算入すべきところ(最高裁判所昭和四〇年九月二四日、昭和四八年六月二八日各判決参照)、昌栄商事および川上土地名義で締結された本件土地建物の売買契約は昭和三七年八月三一日付でなされているが、売買物件の所有権移転の時期は、右契約の特約により登記手続完了日である昭和三八年一二月二五日であるから、右売買に基づく譲渡所得の発生は昭和三八年度分である。

二、仮に本件建物が蔡の所有であったとすると、被控訴人は、本件建物を自己所有の本件土地とともに竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却し、右代金全額を収受しているものであるから、右代金九、三〇〇万円のうち本件土地に相当する代金は譲渡所得の収入金額を構成するが、本件建物に相当する代金は一時所得の収入金額を構成するものである。これにより被控訴人の所得金額を計算すると、別表(三)のとおり、金四、三一七万一、〇六〇円となるから、右課税所得金額の範囲内でなされた本件更正処分には違法がない。なお、本件建物が本件土地とともに代金九、三〇〇万円で竹中工務店に売却されたのは昭和三七年八月三一日であるけれども、その代金完済日が昭和三八年一月三一日となっていること、その他本件のような特殊な事実関係のもとについては、課税の公平の原則に照らし、右一時所得の帰属年度を昭和三八年度と認めて妨げないものと解する。

三、被控訴人は、昭和三八年度分の譲渡所得および配当所得について、それぞれ仮装隠ぺいを図って、その課税を免れようとしたものであって、国税通則法六八条所定の要件を具備しているから、本件重加算税の賦課決定処分には違法はない。

(一)  譲渡所得関係

被控訴人は、本件土地建物を竹中工務店に代金九、三〇〇万円で直接譲渡しているにもかかわらず、本件土地のみを昌栄商事に代金一、五〇〇万円で譲渡したとして確定申告書を提出していたもので、譲渡所得を故意に仮装隠ぺいしたことが明らかであるから、次の部分について重加算税を賦課するのを相当と認め、その決定をしたものである(別表(一)記載の区分〈6〉参照)。

〈1〉 調査に基づく昭和三八年度分譲渡所得金額四二、九八二、一三八円

〈2〉 申告譲渡所得金額(被控訴人が昭和三七年度分と誤って申告した譲渡所得金額)六、〇〇八、三五〇円

〈3〉 重加算税の対象となる昭和三八年度分の譲渡所得金額三六、九七三、七八八円

(二)  配当所得関係

被控訴人が実質所有する東映等の株式四五八、二一五枚については、別表(二)記載のとおり、ことごとく橋本英美等の仮装名義を使用し、しかも受領配当金も他人名義で予金している等のほか、さらにその配当金一二七万五、一三三円について、全く確定申告をしていないなどの事実を総合すると、配当所得を仮装隠ぺいしたことは明らかであるから、その金額について重加算税を賦課するのを相当と認め、その決定をしたものである。(別表(一)記載の区分〈1〉参照)。

(被控訴代理人の主張)

一、控訴人主張一、二の各事実はすべて否認する。本件建物は蔡の所有に属するものであって、被控訴人が本件建物を昌栄商事もしくは川上土地または竹中工務店に売却したこともなければ、被控訴人が本件土地建物を川上土地または竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却したこともない。被控訴人は、その所有の本件土地は、昭和三七年八月二二日、昌栄商事に対し代金一、五〇〇万円で売却したことはあるが、これによる譲渡所有については既に昭和三七年度において申告納税ずみである。

二、控訴人主張三(一)(二)の事実中、控訴人が、被控訴人の昭和三八年度分の譲渡所得および配当所得について、控訴人主張の算定根拠に基づいて、本件重加算税の賦課決定処分をなしたこと、および同三(二)の事実中、被控訴人が実質所有する東映等の株式四五八、二一五枚について、別表(二)記載のとおり、仮装名義を使用し、受領配当金も他人名義で予金していたこと、ならびにその配当金一二七万五、一三三円について全く確定申告をしていないことは認めるが、その余の事実は否認する。被控訴人は配当所得に関しては国税通則法六八条所定の要件充足をあえて争わないものである。

(証拠関係)

一、控訴代理人は、乙第二四号証、第二五号証の一ないし一六、第二六号証の一ないし四、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九号証の一ないし七、第三〇号証、第三一、三二号証の各一、二、第三三号証の一ないし一三、第三四号証の一ないし七、第三五号証の一ないし五、第三六号証ないし第三八号証、第三九号証の一ないし三、第四〇号証ないし第四三号証、第四四号証の一ないし三を提出した。

二、被控訴代理人は、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、当審において控訴人から提出された右各乙号証の成立をすべて認めた。

理由

一、当裁判所は、被控訴人の本訴請求中、本件更正処分の取消しを求める請求は、総所得金額四、九〇六万一、二七一円について金六〇七万九、一三三円を超える部分は理由があるからこれを認容するが、その他の部分は失当として棄却すべく、また、本件重加算税金六九八万七、三〇〇円の賦課決定処分の取消しを求める請求は、その対象となる譲渡所得金額金三、六九七万三、七八八円に対応する部分は理由があるからこれを認容するが、その他の部分は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、左記に付加、訂正するほか、原判決九枚目表一行目から同一三枚目表六行目までと同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決一〇枚目裏終より四行目に「次のとおり」とあるを「同年八月三一日ごろには全額」と改め、同一〇枚目裏終より二行目から同一一枚目表二行目までを削除する。

(二)  原判決一一枚目裏三行目「乙第一八号証」の次に「乙第四二号証」を加え、同一一枚目裏五行目に「前者」とあるを「乙第一八号証」と改め、同一一枚目裏六行目「----録取したもので」の次に「あり、乙第四二号証は同じく本件建物の賃借人であった前田米繁の供述を録取したもので」を加え、同一一枚目裏七行目に「同人」とあるを「同人ら」と改め、同一一枚目裏終より三行目に「後者」とあるを「乙第二二号証」と改める。

(三)  原判決一二枚目裏七行目「右処分は-----」の前に「本件重加算税の賦課決定処分は、その対象となる昭和三八年度分の譲渡所得金額を金三、六九七万三、七八八円、配当所得金額を金一二七万五、一三三円としてなされたものであることは当事者間に争いがないところ、」を加え、同一二枚目裏終より三行目に「これに対応する部分」とあるを「右処分のうちその対象となる譲渡所得金額金三、六九七万三、七八八円に対応する部分」と改め、同一二枚目裏終より三行目から四行目にかけて「また右の配当所得----」とある部分から同一三枚目表三行目「----結局」までを削除し、同一三枚目表六行目「-----である。」の次に「しかし、本件重加算税の賦課決定処分のうち、その対象となる配当所得金額金一二七万五、一三三円に対応する部分については、被控訴人が実質的に東映等の株式四五八、二一五株について、別表(二)記載のとおり、ことごとく橋本英美等の仮装名義を使用し、しかも受領配当金も他人名義で予金しているほか、さらにその配当金一二七万五、一三三円について、まったく確定申告をしていないことは当事者間に争いのないところであるから、被控訴人が配当所得を仮装隠ぺいしていることは明らかであって、国税通則法(昭和四五年法律八号による改正前のもの)六八条所定の要件を具備しているものというべく(被控訴人も右配当所得については、同法六八条所定の要件を充足していることをあえて争わない)、違法はないというべきである。」を加える。

二、控訴人は、左記(一)ないし(一〇)のような事実関係を綜合すると、被控訴人は、本件土地建物を所有し、本件土地建物を川上土地を通じて竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却したにもかかわらず、これを隠ぺいして所得税を免れようと企て、たまたま本件建物が蔡名義で所有権保存登記がなされてるところから、あたかも蔡がその所有の本件建物を売却したように仮装し、さらに昌栄商事なる中間譲渡者を介在させて、被控訴人が本件土地を代金一、五〇〇万円で、蔡が本件建物を代金二、五〇〇万円で昌栄商事に売却し、ついで昌栄商事が本件土地建物を川上土地を通じて竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却したような虚構の事実を作り上げて、本件土地建物についての譲渡所得を隠ぺいしたと主張する。そして、仮に本件建物が蔡の所有であったとしても、被控訴人は、本件建物を自己所有の本件土地とともに川上土地を通じて竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却し、右代金全額を収受したものであるから、右代金九、三〇〇万円のうち本件建物に相当する代金は被控訴人の一時所得の収入金額を構成するとも主張する。

(一)  原審証人翁金泉の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第二一号証の一、二によれば、本件土地建物について、昭和二三年五月一二日、その前所有者翁金泉と売買契約を締結し、その代金の支払にあたったのは被控訴人であったことが認められる。

(二)  成立に争いのない乙第二六号証の一ないし四によれば、蔡は昭和二九年九月三〇日第三一五〇一四号登録証明書の交付を受けたまま、外国人登録法によるその後の申請等をしていないことが認められるところ、一方各成立に争いのない乙第三三号証の一ないし一〇、第四四号証の一ないし三によれば、蔡は昭和二三年一〇月中旬、中国台湾省に帰国し、以後本邦に所在していないものとされているのであるから、蔡は昭和二三年一〇中旬もしくはおそくとも昭和三一年以降中国台湾省に帰国し、以後本邦に所在していないものと認められる。

(三)  原審証人大工昭三郎の証言に各成立に争いのない乙第一八号証、第二五号証の一ないし一三、第四一号証ないし第四三号証によれば、被控訴人は、本件建物の固定資産税を納付し、昭和二四年以降本件建物を吉尾幾之助、ついで木下三治等の第三者に賃貸するなどして、本件建物を直接管理していたことが認められる。

(四)  各成立に争いのない乙第二三号証、第二五号証の一ないし一六によれば、本件建物については昭和二九年一〇月二三日蔡名義に所有権保存登記がなされているけれども、右保存登記は、本件建物で営業名義人を蔡として飲食店を経営していた吉尾幾之助が昭和二六年度分から昭和二九年度分までの遊興飲食税等を滞納していたところから、国において本件建物が蔡の所有であるとして、滞納処分のため、職権によりその登記嘱託をした結果なされたものであることが認められる。

(五)  各成立に争いのない乙第三七号証、第三八号証、第三九号証の一ないし三、第四〇号証によれば、被控訴人は、昭和二六年一二月ごろ、大阪市浪速区元町二丁目一〇〇番地上に建物を新築所有し、以後これに居住しているところ、右建物についても昭和二九年一月九日蔡名義で所有権保存登記がなされているが、右保存登記も大阪市が職権によってその登記嘱託をした結果なされたものであって、被控訴人は、昭和三七年一二月二六日大阪地方裁判所に対し、被控訴人を原告、蔡を被告とする所有権移転登記手続請求訴訟(昭和三七年(ワ)第五三六一号)を提起し、前記(二)のとおり蔡が本邦に所在しないのにかかわらず、同人が本邦に居住するものとして、架空の住所を定めて同人に対する訴状、期日呼出状が送達されたものとなし、同人欠席のまま、昭和三八年三月三〇日、被控訴人勝訴の判決を得て、同年六月一八日被控訴人を所有者とする所有権移転登記を了していることが認められる。

(六)  蔡と昌栄商事との間において、売主を蔡、買主を昌栄商事として、昭和三七年八月二二日、本件建物について代金二、五〇〇万円で売買契約が成立した旨の売買契約証書(甲第四号証の一)が存在し、原審証人宋金炎の証言によれば、宋金炎は昭和三七年中東京で蔡と出会い、昌栄商事名義で同人から本件建物を買い受ける旨の売買契約を締結したというのであって、被控訴人も、原審においては、蔡は昭和三〇年ごろまでは関西方面に居住し、それ以後は東京方面に居住していたが、ときどき蔡とは出会っており、本件建物の取引後にも蔡は一度自分のもとにやってきた旨、当審においても、蔡と最終的に出会ったのは昭和三七年一一月ごろである旨それぞれ供述しているのであるが、前記(二)の事実に照らせば、原審証人宋金炎の右証言部分、原審および当審における被控訴人の右供述部分はいずれも虚偽であって、宋金炎が昌栄商事の代理人として、もしくは昌栄商事名義をもって、蔡との間において、本件建物を代金二、五〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結した事実はないものと認められる。

(七)  原審証人宋金炎の証言とこれにより真正に成立したと認める甲第五号証の二によれば、被控訴人は宋金炎に対し、昭和三八年一月三一日、謝礼金として金一〇〇万円を支払っていることが認められ、原審および当番における被控訴人本人尋問の結果中には、被控訴人が宋金炎に支払った右金一〇〇万円は、宋金炎の仲介により、被控訴人と昌栄商事との間において、本件土地について売買契約が成立したことに対する謝礼金である旨の供述部分があるけれども、一方、原審証人宋金炎の証言とこれにより真正に成立したと認める甲第六号証の一ないし三によれば、被控訴人が宋金炎に右謝礼金一〇〇万円を支払った昭和三八年一月三一日は、竹中工務店が、本件土地建物の売買代金九、三〇〇万円について、その残代金の支払を完了した日(昭和三八年一月三〇日)の翌日であることが認められ、しかも原審証人宋金炎の証言中には、本件土地建物の取引は、宋金炎が昌栄商事名義で被控訴人から代金一、五〇〇万円で買い受けた本件土地を、本件建物とともに、竹中工務店から委任を受けた川上土地に対し、代金九、三〇〇万円で売却したものであって、形式上は宋金炎と被控訴人との間に本件土地について売買契約が成立したことになってはいるが、実質的には、本件土地について、宋金炎の仲介により、被控訴人と竹中工務店との間に売買契約が成立したものであるから、宋金炎が被控訴人から謝礼金として右金一〇〇万円を受領したものである旨の証言部分がある。

(八)  蔡と昌栄商事との間において、売主を蔡、買主を昌栄商事として、昭和三七年八月二二日、本件建物について、代金二、五〇〇万円で売買契約が成立した旨の売買契約証書(甲第四号証の一)および被控訴人と昌栄商事との間において、売主を被控訴人、買主を昌栄商事として、同日、本件土地について、代金一、五〇〇万円で売買契約が成立した旨の売買契約証書(甲第五号証の一)がそれぞれ存在し、また、昌栄商事と川上土地との間において、昌栄商事を売主、川上土地を買主として同月三一日、本件土地建物について、代金九、三〇〇万円で売買契約が成立した旨の売買契約証書(乙第一号証)が存在するところよりすれば、宋金炎は被控訴人および蔡から本件土地建物を、昭和三七年八月二二日、合計金四、〇〇〇万円で取得し、その後間もなく同月三一日、これを代金九、三〇〇万円で川上土地に売却したことになるわけであるが、一方、原審証人中島昭二の証言により真正に成立したと認める乙第一一号証ないし第一四号証の各一、二に原審証人中島昭二、同青木直一、同斉藤成彦の各証言によれば、竹中工務店が本件土地を買収しようと内部的に決定したのは昭和三五年一〇月二一日であって、本件土地の買収予定価額を金四、二〇〇万円として、そのころ、被控訴人に対し、川上土地の係員である斉藤成彦をして、二、三回にわたり、本件土地の買収の交渉に当らせていた事実、および、その後昭和三八年九月一〇日、竹中工務店は当初の買収予定価額金四、二〇〇万円に金五、一〇〇万円を追加し、結局金九、三〇〇万円で本件土地を買収することに決定した事実がそれぞれ認めれる。

(九)  原審証人宋金炎の証言ならびに原審および当審における被控訴人本人尋問の結果中には、被控訴人と昌栄商事との間において、昭和三七年八月二二日、本件土地について売買契約が成立すると同時に、宋金炎から被控訴人に対し、手付金として金五〇〇万円が現金で支払われた旨の、また、原審証人宋金炎の証言中には、蔡と昌栄商事との間において、前同日、本件建物について売買契約が成立すると同時に、宋金炎から蔡に対し、同人の指定する関西相互銀行梅田支店の同人名義の口座に手付金四〇〇万円が振り込まれた旨の各供述部分があるけれども、各成立に争いのない乙第二八号証、第二九号証の一ないし七、第三〇号証によれば、宋金炎は謝坤薗に対し金一、〇〇〇万円の融資方を依頼し、謝は同年八月二二日同人および同人の主宰する八州企業株式会社名義で関西相互銀行梅田支店から金一、〇〇〇万円の手形貸付を受けたうえ、これを宋金炎に貸付け、宗金炎は同日同銀行に昌栄商事名義の当座預金口座を創設するとともに、右金一、〇〇〇万円を預け入れ、ただちに昌栄商事振出の金四〇〇万円、金五〇〇万円、金一〇〇万円の各小切手で引出したうえ、これをそれぞれ蔡、被控訴人、昌栄商事名名義の通知預金とし、右各通知預金証書を謝に対し借入金一、〇〇〇万円の担保として交付したものであって、前記各証拠と前記甲第六号証の一ないし三によると、宋金炎は同年九月三日、右各通知預金を一括解約して借入れにかかる金一、〇〇〇万円を謝に返済していることになっていること、しかも前記甲第六号証の一によると、被控訴人は同年八月三一日本件土地代金として現金一、五〇〇万円の交付を受けると同時に右通知預金証書(額面金五〇〇万円)を宋金炎に返還し、また、蔡は同年九月一日、仮払金として金四〇〇万円を受けとると、これと引換えに手付金として受取ったとする右通知預金証書(額面金四〇〇万円)を宋金炎に返還したことになっていること、また、成立に争いのない乙第三五号証の一、二によると、蔡の関西相互銀行梅田支店の同人名義の口座は、昭和三七年八月二二日前記売買契約が成立した当時には存在せず、同年一〇月二〇日はじめて普通預金口座として設けられていることがそれぞれ認められる。

(一〇)  原審証人宋金炎の証言によれば、被控訴人に対する本件土地代金一、五〇〇万円の支払については、宋金炎は被控訴人に対し、昭和三七年八月二二日、手付金として金五〇〇万円を現金で支払い、同年八月三一日、関西相互銀行梅田支店において残代金一、〇〇〇万円を支払ったというのであり、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人に対する本件土地代金一、五〇〇万円の支払については、被控訴人は宋金炎から、昭和三七年八月二二日、手付金として現金五〇〇万円の支払を受け、同年八月三一日、関西相互銀行支店において、残代金一、〇〇〇万円の支払として、同銀行振出の額面金一、〇〇〇万円の保証小切手(乙第三一号証の一、二)の交付を受け、被控訴人はこれを第一銀行難波支店に通知預金(甲第五号証の六)としているというのであるが、前記甲第六号証の一ないし三によると、昭和三七年八月三一日竹中工務店より昌栄商事に対して本件土地建物の第一回買収代金として金六、二五〇万円が前記関西相互銀行梅田支店の昌栄商事当座預金に払い込まれると、同日、宋金炎は現金三、〇〇〇万円を引き出し、被控訴人に対し、前記(九)のように手付金として交付したとされる額面金五〇〇万円の通知預金証書の返還を受けるとともに現金一、五〇〇万円を支払ったものとして会計処理がなされていることが認められる。また、原審証人宋金炎の証言によれば、宋金炎は昌栄商事名義で蔡から本件建物を代金二、五〇〇万円で買い受けたことになっているが、実際はこれに金五〇〇万円ばかりを追加して、全部で金三、〇〇〇万円で買い受けたものであるというのであるが、前記甲第六号証の一ないし三によると、宋金炎は蔡に対し、昭和三七年八月二二日、手付金として額面金四〇〇万円の通知預金証書を交付したが、同年九月一日、蔡から右通知預金証書の返還を受けるのと引換えに、金四〇〇万円を小切手で仮払金として支払ったほか、同年八月三一日、現金で金一、〇〇〇万円、同年一〇月一五日、小切手で金三〇〇万円、同月二五日、小切手で金一、五〇〇万円、昭和三八年二月二二日、現金で金三〇〇万円を支払い、合計金三、五〇〇万円を支払った勘定になることが認められる。

しかしながら、前記乙第四四号証の一、二(蔡の大阪高等裁判所長官宛の書簡)によれば、蔡は昭和二三年より本件建物の所有権を蔡名義で獲得しているというのであり、本件建物について昭和二九年一〇月二三日蔡名義でなされている所有権保存登記も、国が被控訴人を含む関係者に事情を聴取する等して調査した結果、本件建物の所有権は蔡であると判断して、職権によりその登記嘱託をしたためであると考えられるところよりすると、前記(一)ないし(一〇)のような事実関係が存在するからといって、本件建物が被控訴人の所有に属するものであるとは、にわかに断定しがたいし、また、前記(一)ないし(一〇)のような事実関係を総合しても、真実は被控訴人が昭和三七年八月三一日本件土地建物を代金九、三〇〇万円で川上土地を通じて竹中工務店に売却し、右代金九、三〇〇万円を受領したにもかかわらず、被控訴人がこれを隠ぺい仮装して所得税を免れようとして、昌栄商事なる中間譲渡者を介在させ、昌栄商事が被控訴人から本件土地を代金一、五〇〇万円で買い受け、本件建物とともにこれを川上土地を通じて竹中工務店に代金九、三〇〇万円で売却したような虚構の事実を作り上げたものであるとは、にわかに認めがたい。その他本件全証拠を検討しても、控訴人の前記主張事実を是認するに足りる証拠はない。

三、よって、当裁判所の判断と結論を異にする原判決は一部不当であるから、民訴法三八四条一項および三八六条の規定によって原判決を変更すべく、訴訟費用の負担について同法九六条および九二条但し書を適用し、主文のとおり判決する。

(判事 阪井昱朗 判事 宮地英雄 裁判長判事山内敏彦は転任のため署名捺印できない。判事 阪井昱朗)

(一) 重加算税の計算について

〈省略〉

〈省略〉

算式 (重加算税の基礎となるべき税額)(重加算税率) (重加算税)

23,291,000円×30%=6,987,300円

別表(二)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(三)

(1) 一時所得関係(本件建物の売却によるもの)

〈1〉 収入金額 65,448,000円(建物 1,160,000円+借地権64,288,000円)

〈2〉 収入を得るために支出した金額 0 (所得税法9条1項9号)

〈3〉 一時所得金額 65,488,000円(〈1〉-〈2〉)

(2) 譲渡所得関係(本件土地の売却によるもの)

〈4〉 収入金額 27,552,000円(〈1〉+〈4〉=93,000,000円)

〈5〉 取得金額 1,982,880円(宅地の取得価額)

〈6〉 譲渡に要した費用4,525,000円(93,000,000円に対する総額(建物に対応するものを含む)を計上した。)

〈7〉 譲渡差益(〈4〉-(〈5〉+〈6〉)) 21,044,120円

(3) 課税所得金額

(65,448,000円(〈3〉+21,044,120円(〈7〉)-150,000円×1/2=43,171,060円

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